今日のルートは砂漠を270km ひたすら走る。調べた感じでは200km弱は街がなさそうだ。標高は2000m付近までのアップダウンで峠が7つほどある。最初にルートを計画した時から最も厳しい区間になるだろうと思っていた。こんな何もない砂漠を通るらずともいいのではないか?しかし、周りには他の道はほとんどなかった。そして、この先のルートを考えるとこの道を行くしかなかったのである。果たして無事この砂漠区間を抜けることができるのだうか?
距離も長いので僕らは朝4時過ぎにスタートした。マイクとは80km先に交差点があるのでそこで9時ぐらいまでに落ち合うことにした。モーテルを出発し暗闇の中昨日来たのとは反対側の下り坂を下っていった。それはそれは長い下り坂で、かなりのスピードで進んでいった。暗闇の砂漠の茂みからウサギなどの動物が飛び出すかもしれない。少し注意しながら車の来ないことを確認して、少し道の真ん中寄りを走る。
しばらく走ると太陽が登ってきた。今日の日の出もとても綺麗だった。
40kmほど走ると小さな街があった。そこには感じのいい消防署があったので写真を撮ったりした。
更に先へと道を進んだ。街を過ぎて峠をひとつ超え、道はどんどんと下っていった。そして67kmほど進んだところに交差点があったのである。ここに来てなんとなく違和感を感じた。この交差点はいったいどの辺りなのだろうか?そう思ってふと地図を見たのである。地図を見て愕然とした。その道はまったく違う道でなんとラスベガスへと向かう道だったのである。
↑ロスト後のルートプロフィール
どこかで曲がるところがあったのだろうか?地図上の道をたどっていくと最悪なことに正しい道はスタートの街にあった。そこにT字路があり曲がらなければならなかったのだ。
道を間違う時いつも思うことがある。それは実に単純な法則で、「1つでも何か当てはまらない出来事があればその道は確実に間違っている」というものである。
例えば進む方向に対して太陽の向きがおかしいとか。でも、たまたま今は道がそういう風に曲がっているだけでもう少し進めば正しい向きに向くはずだと思いなかなか間違いに気がつかなかったりする。
とにかく僕らは今まで走ってきた途方もない距離を引き返さなくてはならなかった。しかも、やってきた道はほとんど下りだったので、帰りは登りばかり。最後は昨日と同じような20kmも続く登りが待っていた。マイクと約束している交差点にはどうやっても予定している時間にたどり着くことはできない。しかし、マイクも僕らのことをきっと探しているだろうから、僕らは元の道へと急いだ。
約130kmの大ロストを経て、再び街へ戻ったのは11時ごろだった。問題のT字路は朝通った時の方向からだと少し離れた反対車線側にあった。それは奇しくも昨日の朝と同じロストの仕方だったのだ。朝は暗くて気がつかなかったが、そこには6号線の分岐を示す大きな看板があった。
マイクは今どこにいるのだろうか?M女史にはこのT字路を曲がってゆっくりと進んでもらうことにした。僕の方はもしかしたらマイクが戻ってきてモーテルにいる可能性を捨てきれなかったので、このT字路とモーテルの間を確認することにした。
モーテルに着くと昨日のオバサンがいた。昨日泊まった客であることは覚えているようで、マイクが戻って来たか聞いたら戻ってきていないそうだ。何しに戻ってきたのかは気になったようで、どこまで行くのかと聞かれた。エライまで行くんだと言うと少し驚いたようで「気をつけてな」と言ってくれた。昨日は口やかましかったけど案外いい人かもしれない。
ついでに、この後いつマイクに会えるかわからないので、街で水とゲータレイドと食料を持てるだけ買い込んでキャリアにくくりつけて街を出発した。
M女史にはゆっくりと言ったつもりであったが6号線側の道もすごい下りになってて、既に見えないところまで行ってしまっていた。いや、よく見るとどこまでも続く道の先に何か見える。あの道の脇にとまった車。あの白いセダン。それは紛れもなくマイクの車だった。
「ゴメンなさい、マイク。道を間違えてしまって・・」。再会してすぐ僕はマイクに謝った。でもマイクは僕らと再会できたことにホッとして、優しく出迎えてくれたのだった。そして、冷たいドリンクを差し出してくれた。すごく喉が渇いていたのに気がついた。その時飲んだ水とコーラはすごくおいしかった。
マイクは僕らが道を間違えている間、今日走る予定の道をひたすら行ったり来たりして僕らを探し続けたようだ。そして、警察にも連絡して、自転車を見なかったか尋ねてくれたらしい。ほんとうに会えてよかった。マイクと再会できてほんとうに嬉しかった。
やっとのことで本来の道に戻り、僕らは再び進み始めた。マイクとは余り距離を離れないように数十キロ進むたびに確認できるようにした。
この国道6号線の景色はなかなかすごかった。と?にかくまっすぐな道でびっくりするぐらい先まで見渡すことができた。そこはきれいな円形の盆地になっていて、道が下りだしてからだんだん平地になり徐々に登っていき頂上に達するまでが見渡せてしまうのだ。登りの頂上までたどり着くと次の盆地も同じように次の頂上までが見渡せた。あとでマイクに聞いた話だが、これらの盆地のいくつかは昔隕石が落ちてできた大きなクレーターだそうだ。そのクレーターのど真ん中を道が走っているらしい。そこを走っていると地球の雄大さを感じずにはいられなかった。
あまりに遠くまで見える景色を見ていると、頭の中にふとガンダーラの曲が流れてきた。そうすると景色は昔西遊記で見た張りぼての背景のようにも見えてくるのであった。こんなに道がまっすぐに続くなんてありえない話で、もうすぐ張りぼてに「ずぼっ」って突っ込むんじゃないだろうか?そんな冗談を言いながら延々と続く道を進んだ。
本来のルートの80km地点。元々マイクと落ち合う予定だった交差点にたどり着いた。そこはとてつもなく広大な大平原のど真ん中だった。地球の大地がうねっているのを感じることができた。
マイクはもしもの場合に備えてここに補給物資を置いてくれていた。目印に赤いコーンが置いてあり、僕らに向けたメッセージが書いてあった。
↑キャンプ地点のすぐそばで鹿を見た
そんな盆地を4つ程越えた本来のルートのちょうど半分ぐらいの地点。時間は18時15分。ロストした距離を合わせると僕らは275kmを走っていた。道に迷った時はとにかく夜も走り続けて街までたどり着くつもりだったのだが、マイクと再会したとき僕らは別の作戦を立てていた。それは砂漠の真ん中でキャンプをするというものだった。街まで走り続けた場合、あと130km走ることになる。そうなるとおそらく夜明けまで走り続けることなるが、それはあまり現実的ではなかった。夜明け到着だと予定していたモーテルもキャンセルした方がいいという話になり、だったらキャンプでもしようかという話になったのである。
キャンプと言っても特にテントがあるわけではなく、シートを敷いて地べたに寝る。布団代わりに寝袋を広げてかぶって寝るのだ。しかしながら、食料と飲み物については全く問題はなかった。マイクはいつものようにガスコンロを用意して、明るいうちに晩ご飯の支度を始めた。マイクはアウトドア好きで思いがけずキャンプになったことが楽しそうだった。
それから、本当はマイクのサポートは今日まで。正確に言うと明日の朝までだったのだが、マイクは自分の予定をなんとか調整してあと1日伸ばしてくれたのだった。申し訳ない気もしたが、本当に嬉しかった。
その日の夜は時間がゆっくりと流れた。ご飯を食べながらいろいろと話しをした。地図を見ながら、今日どこへ行ってたんだとか、明日はこっちへ行くんだとか。あと、今いるところもクレーターの真ん中で近くに隕石の落ちた場所があるんだとか。
ご飯を済ませたころには、あたりはすっかり暗くなっていた。三人川の字になってシートの上に寝転がると、空には満点の星空があった。今日の星空も最高に綺麗だった。しかも今日はこの星空を見ながら眠りにつくことができるのだ。