標高1000m以上を4回も登るのが初日のコースであった
2011年7月16日。僕らは宇都宮にいた。この三連休を使って、毎日200kmのブルべが開催されるのだ。毎日200kmを走る生活は、あのアメリカの毎日を思い出して少しワクワクとしたが、今回のブルべはただのブルべではなかった。山岳ブルべという名の通り毎日とんでもない山ばかりを走るのである。ルートプロフィールを見ると本当に走れるのだろうかと思った。走るだけならいいが、ブルべなので時間制限がある。ほんとにクローズに間に合うんだろうか?久々にそんな不安を抱きながら山岳三連戦は始まろうとしていた。
初日、僕らは5時前にホテルを出た。そして受付が始まる6時までに到着するようにスタート地点へと向かった。初日はスタートがふた班に分かれていて、僕らは早い方の7時スタートだった。早い方のスタートにしたのは明日までの時間をできるだけ長く取るための作戦であった。
スタートに着くと既に多くの参加者が集まっていた。僕らは自転車の準備をして受付が始まるのを待った。
午前6時10分、受付が始まる。今日は参加人数も多いということで5分間隔でのウェーブスタートとなる。いち早く受付に並んだ僕らは最初のスタートとなった。
しばらく他の参加者と話すなどして時間を潰しているとブリーフィングが始まった。今回のコース、土地勘も無い所であるにもかかわらず、市道、町道がとても多かった。気を抜くと簡単にミスコースしてしまいそうだ。だからブリーフィングのスタッフの話を注意して聞いていた。
最初の峠を超えると次の登りは遮るものはなくて、あとは地獄しかありません。たしかそんな事をスタッフは言っていた気がする。いったいどんなコースなんだ?そんなことを思いながらブリーフィングも終わりいよいよスタートの時間をがやってきた。
宇都宮森林公園から国道に出ると最初のPCまでは平坦な道が続いた。今日のコース、この平坦路でできるだけ時間を稼いでおく必要があった。後半は山しかなくて時間がかかりそうだからだ。とはいうものの三日間走るわけなので、足を使って無茶苦茶飛ばすわけにもいかなかった。僕らはほどほどに貯金ができるようなスピードで最初のPCを目指した。
まっすぐな道で後ろを向くと、10台ぐらいの集団が追いついてきた。明らかに僕らより後のウェーブでスタートした人達のようだった。彼らは車通りの少ない道になると僕らを追い抜いていった。
PC1までで既に何度かミスコースしそうになりながら、それほどのロスはなく僕らはPCにたどりついた。先ほど抜いていった集団の何人かはまだPCにいた。僕らは休憩もほとんどなく、とりあえず何かを食べてPCを後にした。
PCを出てしばらくも平地区間であったが、キューシートは細かくてミスコース注意ポイントが続いた。
目印の石碑前にて。横から見るとペラペラでモノリスのようだった
なんとかミスコースもなく、平地区間を抜けるといよいよ山岳地帯が始まるのであった。
PCを出るとすぐに最初の峠への登りが始まった。ゆるゆるくねくねと登りが延々と続いた。集団だった参加者もここはそれぞれのペースで登っていた。既に気温も暑く、自販機へ駆け寄る参加者もいた。
ここの登りはまだ日陰が多かったので助かった。それでも暑くてオーバーヒートしないようにゆっくり登っていたら、後ろからM女史が淡々と登ってきた。そんな感じで追いつ追われつ走り、やっとのことで頂上に着くと、何人か他の参加者がいた。
と言っていたので、ついに今日のコースの一つ目の峠を制覇したのかと思っていたが、道はちょっと先のカーブまで下ったかと思うと再び登り始めたのだった。つまり、さっきの人が言いたかったのは登り返しがあるよってことだったのだ。
再び僕らはゆるゆると坂を登り、しばらくしてほんとの頂上にたどり着いた。後はしばらく下りで、僕らは一気に下っていった。途中、道の傍に湧き水があったようで、参加者が何人か水を浴びていたようだった。僕らも止まればよかったと思ったのであるが、下りの勢いで既に戻るには面倒なぐらい下り切ってしまったのだった。結局、僕らは下までそのまま下っていった。
下り切った所で次に待っているのは当然登りだった。約8kmぐらいを登りきったところが行き止まりで、そこが折り返しのPCになっていた。普通のブルべならわざわざ行き止まりの登りなんかはコースに組み入れたりしないと思うが、今日のコースは山岳ブルべ。こういったのは普通で、スタッフにいわせればまだまだ序の口なのかもしれなかった。
登りの手前にはコンビニがあった。そこで僕らは水の補強などしてが、ほとんど休みもないままにその地獄の登りへと向かっていった。
登りはときおり斜度がきつい部分もあったが、全般的にはゆったりとした登りだった。ただ、最初にスタッフが言っていた通りそこには遮るものはなく、まさに灼熱の登りであった。登りながらさっきの下りの湧き水で水浴びをしておけばよかったと何度も思った。この峠には湧き水はないのだろうかと先を見渡したが、目の前に見えるのはどこまでもくねくねと続くガードレールだけだった。
折り返しに近づくにつれて何人かの参加者とすれ違うようになった。もうすぐですよとか頑張れとか励まされながら登ると、やっと折り返しの行き止まりにたどり着いた。
この暑い中、タンクに入れた水を用意してスタッフが待機していた。ブルべカードを出すと共に僕は水をもらい頭から水をかぶった。暑さで朦朧としかかっていたのがなんとかスッキリした。
M女史はまだ坂を登っていた。ガードレールのくねくねのところでちょっと下にいるのが見えたので少し待てば登ってくるはずであったが、なかなか登ってくる気配がなかった。
しばらくしてやっと登ってきたM女史。しかし、自転車を押して歩いてきたのだった。あまりの暑さに途中で脚が攣ってしまったのだ。
久々に泣きが入ったM女史であった。まだまだ初日の半分でほんとに三日も走りきれるのだろうかという思いでいっぱいになった。しかしPCでチェックを受け水をもらい少し休憩すると、なんとか自転車には乗れるようになったので、とりあえず今登ってきた道を下っていくことにした。
下りの途中見晴らしのいいところで気分転換に記念撮影
折り返しの下りはあっという間だった。8時スタートの参加者もいっぱい登ってきていて、僕らは声をかけながら下っていった。
下り切ったところでさっきも立ち寄ったコンビニに戻ってきた。今日はまともなものはまだ何ひとつ口にしていなかったが、流石にこのまま走り続けるのは厳しいと思い、少しそこでご飯を食べることにした。今の下りで少しは貯金ができたので、他にも休憩をしている参加者が数人いた。コンビニの傍では、子供がビニールのプールで水浴びをしていた。僕らも中に入れて欲しい気分だった。
今日の登りは残すところあと二つだった。那須高原を抜ける有料道路と大笹牧場までの登りだ。コマ図には牧場は5時前には閉園すると書いてあった。現在の時刻は2時過ぎ。牧場までは50kmの距離があった。今の調子ではおそらく僕らがたどり着くころには牧場は閉まっているだろうなと思った。
ご飯を食べ終えると僕らはすぐにコンビニを出発した。きつくはないが十数km続く登りをゆるゆると登っていく。M女史はさっき脚が攣ったばかりなので、急がずかといってタイムアウトにはならないほどほどのペースで登っていった。
登っていくと雨がパラパラと降りだした。灼熱だった気温が一気に下がり涼しくなった。それにここの登りは少し日陰もあった。そのおかげでM女史は再び脚が攣るようなこともなく登っていくことができた。
もみじライン頂上付近
有料道路はいつしか下りだし、下りきったかと思うとすぐに次の登りが始まった。今度の登りもゆるゆるとした登りで気温もずいぶん下がり走りやすかった。
大笹牧場と書かれた看板のある交差点を曲がると、頂上まではあと少しだった。
しばらくすると牧場が見えた。牛とかはいなかったが、そこはやはり日光。案の定猿だらけであった。頂上は最後のPCで、スタッフが出迎えてくれた。
時間は5時半になろうかというぐらいだったが、ラッキーなことに牧場のショップは少し遅くまで開いていたようだった。僕らは湧き水に駆け寄り喉の渇きを癒すと、すぐにソフトクリームを買いにいった。それは甘くて冷たくてとても美味しかった。
最後のPCでチェックを受ける。残りの道は下りだけで何もなければ無事ゴールできそうだった。僕らは最後の下りを下っていった。
よく彼女はそういうけど、いつもしぶとく最後まで走り切るのだった。
しかし、今日はまだ初日だった。問題は明日である。おそらく三日間の中で一番難易度が高いのが明日だろう。今日みたいな調子で大丈夫だろうか?そんなことを考えながら、ゴールへ向けて走っていた。
前の方に何人か参加者が走っているのが見えた。それを追いかけながら走っていると、ゴールの建物が見えてきた。
そういって僕らはゴールへと駆け込んだ。
なんとか一日目の走りを終え、無事ゴールできた。時間は12時間ちょっと。悪くはないペースだった。スタッフにチェックをしてもらい、一日目は終了した。
今日のゴールはスタートから5〜6km離れたところで、スタートに車を置いた僕らはスタートに戻らなければならなかった。他にも同じぐらいにスタートに戻る2人の参加者がいた。その人達も男女のペアで走っているようだった。その時は軽く挨拶をするぐらいで話をすることは無かったけれど、走るペースが似ているのかこの三日間よく遭遇することになるのだった。
スタートに戻る道にはゴルフ場があり、そこへ登る坂は短いが結構な斜度だった。宇都宮のゴールは普段はこの坂を登ってゴールになるらしい。今日はゴールの場所は変えてあるのにやっぱりこの坂を登ることになるのは、何か仕組まれているのではないだろうか?そんなことを考えながら走っているとやっと車を置いてある所にたどり着いた。
ほんとに暑い一日が終わった。明日もこんなに暑いのだろうか?明日は更に過酷なコースが待っている。僕らは食事をパパッと済ませると、ホテルに戻り眠りにつくのであった。